国宝紹介>怖い表情で迫力たっぷり、薬師如来立像

「薬師如来立像」は、ボリュームがあり迫力と存在感が、
すばらしい仏像です。
そのお顔は、きりりとした眉、じっと見据えるまなざし、
口元はへの字に曲がっています。
一見して、怖い表情だと感じざるを得ません。

この仏像の怖い表情は、何ゆえなのでしょうか？
薬師如来は、病から人を救ってくれる仏様として有名ですが、
この「薬師如来立像」も呪いや怨念からもたらされる病の蔓延から
すくってもらうために作成されたとされています。
具体的には、当時の女帝・称徳天皇が寵愛する僧・道鏡を
天皇にしようとした「道鏡事件」が、発端です。
結局、道鏡は天皇の地位につくことかなわず、下野国（現在の栃木県）に
左遷されました。
その道教の恨みや怨霊をしずめるためにつくられたとされています。
しかし、諸説もあり決定的な見解では、ありません。

この「薬師如来立像」は、頭から台座まで、腕の一部を除き
一本のカヤの木からほられています。
一本の木で作ることに仏師は、こだわったようです。
そこには、「檀像」の概念がありました。
「檀像」とは、香木の白檀からほられていること、また、できるだけ
一本の木で作られていること、小さな像であることとが特長です。
この「檀像」の作り方は、日本の仏像つくりに大きな影響を与えて
いますが、木そのものに霊的なものを感じる日本人の感性に
とてもあったのでしょう。
「薬師如来立像」は、京都神護寺に収蔵されています。