国宝紹介>運慶作、写実的な無著・世親菩薩立像だが・・

「無著・世親菩薩立像」は、かの有名な運慶が手がけた彫像です。
面と向かって対峙したとき、何か考えにふけっている表情は、
とてもリアリティがあって、きっとこの彫像のモデルである、
無著・世親を如実に再現したものだろうと想像してしまいがちです。

しかし実際には、無著・世親は、四〜五世紀ごろインドに実在した、
学僧の兄弟であり、日本人ではありません。
それに、この像が作成されたのは、一三世紀の鎌倉時代のことで、
そのころには、すでに彼らは歴史上の人物になっていたと思われます。
よって、作者の運慶もこの二人の顔を知るはずもなく、
周りで修行している僧侶をモデルにしたと考えられています。
無著・世親は、興福寺の宗派である法相宗の開祖である、
高名な僧侶でした。

運慶は、奈良仏師康慶の子で、鎌倉時代彫刻形式の根幹を作り、
彫刻界に絶大な影響を及ぼします。
「無著・世親菩薩立像」にも表れている様に、現実的でかつ
洗練された作風で、当時の鎌倉武士だけでなく、
都の貴族たちからも重用されました。
「無著・世親菩薩立像」をはじめとした、興福寺北円堂の仏像は、
運慶作とされていますが、それらは、運慶が指導してつくらせた
工房作です。
運慶一人で作り上げられたように思われがちですが、ね。
「無著・世親菩薩立像」は、奈良の興福寺に収蔵されています。