国宝紹介>父子の対面、源氏物語絵巻・鈴虫

源氏物語絵巻は、平安時代につくられました。
五四帖からなる原作から本文を抜粋し、それぞれの場面を表現しました。１０〜１２巻ほどある大部の絵巻物でしたが、所有者が転々とするうちにそのほとんどが失われてしまいました。
現存するのは、わずかに１９図ほどです。

この「源氏物語絵巻・鈴虫」は、源氏物語第三八帖「鈴虫」からの秋の場面です。
中央に向こうをむいて座っている源氏、その前に座っている公にできない源氏の息子冷泉院。
互いは、親子であることを知っているのです。
源氏の後ろで笛を吹いているのが、源氏の嫡男夕霧です。
この一枚の絵である「源氏物語絵巻・鈴虫」では、
さまざまな心模様が交差して、とてもドラマチックです。
しかし、この「源氏物語絵巻・鈴虫」の構図は、
愛憎が渦巻いているのではなく、関係が安定していることを
表現しています。
構図によって、心の様子が読み取れるようになっているのです。

当時の貴族たちは、このような絵を見ながら、
原作を読んだり朗読してもらったりして、
空想にひたり絵巻物を楽しんだようです。
このような鑑賞方法に適した構図として、「吹抜屋台」という、
屋根や天井を省略することによって、
俯瞰して絵巻を楽しむという描き方が、されています。
また、「引目鉤鼻」という描画法は、どれも同じ顔にすることにより、
鑑賞者の想像力をかき立てるという効果がありました。
この「源氏物語絵巻・鈴虫」は、東京の五島美術館に所蔵されています。